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青年社長

居酒屋「和民」でお馴染みのワタミフードサービス(現・ワタミ株式会社)社長、渡邉美樹の起業にまつわるドキュメント小説のタイトルだ。本人による執筆ではなく、ビジネス小説家、高杉良氏により手掛けられたものである。

読書は趣味の一つだが、とりわけドキュメンタリー、史実に基づく歴史といったノンフィクションものが好きだ。もちろん空想に思いを巡らせるフィクションも楽しいが、どこか心の余裕のような部分だけで楽しむといったインテリチックな楽しみにとどまってしまう。「事実は小説より奇なり」というが、胸に響くような感銘を受けるのはやはりノンフィクションだ。社会に出て10年が経とうとする今、多くの人がそうであるように僕もまた「現実的」になった結果なのかもしれないが。

さて、本書は数あるノンフィクションビジネス小説の中でも思わず身を入れて読み込んでしまう秀逸な本だと思う。友人HI君にも勧めたところ絶賛であった。下手なビジネス書を読むよりよほど刺激になる。

感想文を書く訳ではないが、僕が感じ入ったところを後々自分のために記しておくことにする。


まずは明確な目的をもち、その実現のために常識を越えた行動力を発揮するということ。

渡邉さんは小さな頃からの起業の夢を実現するために、明治大学を卒業後、まず経理会社へ半年勤める。バランスシートなど経営に必要な最低限の財務知識を得るためだ。
その次に佐川急便で1年間セールスドライバーをする。1年間で300万円を貯め会社を興すためだ。
当時佐川急便のセールスドライバーをやった大卒なんて初めてのことだったそうで、それが原因でいじめにもあっている。しかし強い意志を持ってそれらを完遂した。

明確な目的があれば、そのために何をすべきかを考え、それを最短で達成するために手段を選ばず行動に移す。自分で道を切り開いていく人にとって最も大事なことだが、サラリーマンとは言え考えさせられるものがある。
ずっと感じることだが、多くの人が目的意識を忘れているような気がする。何のためにやるのか、そのためにはどうするのが良いのか、、、もっと考えなくてはならない。渡邉さんには及ばないまでも、その心意気が大事だろう。


もっと色々書いておきたいが、もう一つだけ書いておく。
こんな事を言っては失礼なのを承知で言うが、正直なところ少なくとも起業当初の渡邉さんの行動にいつもロジックが伴っていたわけではない。むしろ直感に頼る部分が大きい。起業当初は社会人としても経験未熟で世故に長けていたわけでもない。だから失敗も多い。これは本書にも包み隠さず書かれているとおりだ。しかし彼は行動につぐ行動で様々な危機を乗り越え成功を掴んだ。

では、もし彼が綿密に立てたロジックに従って行動し、世故に長けた若者だったなら同じ成功を掴めただろうか?常識的にはそちらの方が失敗しにくいはずだ。だが、僕はNOだと思う。もし彼がそういう人間だったなら、ワタミを大きく飛躍させる切欠となった日本製粉のパートナー募集の新聞広告を見た直後に応募の電話を入れるような鬼神のような行動力は生まれなかっただろう。彼のカリスマ性は情熱に裏打ちされたスピーチや行動によるところが大きいが、綿密なロジックに従うような人間であれば、そのカリスマ性は生まれなかっただろう。

渡邉さんの有名な一言「夢に日付を」という言葉だけ聞けば、夢に向かってスケジュールをきちんと立てる綿密さや、その夢への過程をどのように立てるかというロジカルなニオイがしてくる。しかし僕は渡邉さんの本質はそこには無いと思う。夢に日付を入れる意味は、実現不可能でもいいから自分に敢えて高い目標を課すことで、それを情熱に変え、行動に変えるための手段なのだと考える。本の中で起業前後の若かりし頃の渡邉さんは、「10年後には上場する会社を創る」とよく口にしている。その10年後という言葉には綿密さもロジックもない。形ある目標を立て突き進むための光を灯したに過ぎない。

情熱はあれど直感的な行動の結果として彼は小さな失敗、いや倒産の危機ともなった大失敗をも引き起こしてしまったが、彼はそれ以上の成功を自らたぐり寄せた。

長々書いたが、言いたいのは、「考えろ、しかし考えすぎるな、行動しろ。」ということである。
綿密に仮説を立て、理論武装し、ロジカルに行動することは悪いことではない。
しかし、僕らは必要以上に失敗を恐れて行動できずにいるのではないだろうか。
リスクヘッジ、事業継続性、、、安全を担保すべしとのキーワードが世の中には満ちあふれている。しかし、それらに振り回されるだけでは本当の意味での成長は無いのではないだろうか。失敗しない仕事や生き方は安定した結果を生むだろう。しかし、一定以上の成果は期待できない。

一サラリーマンの自分にとって重たい課題ではあるが、そのことを忘れないようにしたい。

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コメント (1)

カバ:

私も渡辺社長の起業家としての溢れんばかりの情熱と行動力に圧倒されました。

感動が落ち着くと、次に、資本主義の行き着く果てについても考えが膨らみました。
私はひょんなことからタイで「青年社長」を読みましたが、タイ人の食生活はいたってシンプルです。朝は適当におかゆを食べ、のんきに働き、お昼はクエティオとよばれるヌードルをなじみの屋台で食べ、夕方まで適当に働き、夜は家に帰って手料理で団欒している。飲食業が反映する余地もなく、幸福な生活をしています。
こんなシンプルな生活もありではないか、日本の飲食サービス業が必要以上になっていないか?とも考えさせられました。資本主義の行き着く果ては果たして幸福なのでしょうか?(こんなことを考えるのはビジネスをしていない私だけかもしれませんが)

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2006年12月11日 23:13に投稿されたエントリーのページです。

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