メイン

本 アーカイブ

2006年12月11日

青年社長

居酒屋「和民」でお馴染みのワタミフードサービス(現・ワタミ株式会社)社長、渡邉美樹の起業にまつわるドキュメント小説のタイトルだ。本人による執筆ではなく、ビジネス小説家、高杉良氏により手掛けられたものである。

読書は趣味の一つだが、とりわけドキュメンタリー、史実に基づく歴史といったノンフィクションものが好きだ。もちろん空想に思いを巡らせるフィクションも楽しいが、どこか心の余裕のような部分だけで楽しむといったインテリチックな楽しみにとどまってしまう。「事実は小説より奇なり」というが、胸に響くような感銘を受けるのはやはりノンフィクションだ。社会に出て10年が経とうとする今、多くの人がそうであるように僕もまた「現実的」になった結果なのかもしれないが。

さて、本書は数あるノンフィクションビジネス小説の中でも思わず身を入れて読み込んでしまう秀逸な本だと思う。友人HI君にも勧めたところ絶賛であった。下手なビジネス書を読むよりよほど刺激になる。

感想文を書く訳ではないが、僕が感じ入ったところを後々自分のために記しておくことにする。


まずは明確な目的をもち、その実現のために常識を越えた行動力を発揮するということ。

渡邉さんは小さな頃からの起業の夢を実現するために、明治大学を卒業後、まず経理会社へ半年勤める。バランスシートなど経営に必要な最低限の財務知識を得るためだ。
その次に佐川急便で1年間セールスドライバーをする。1年間で300万円を貯め会社を興すためだ。
当時佐川急便のセールスドライバーをやった大卒なんて初めてのことだったそうで、それが原因でいじめにもあっている。しかし強い意志を持ってそれらを完遂した。

明確な目的があれば、そのために何をすべきかを考え、それを最短で達成するために手段を選ばず行動に移す。自分で道を切り開いていく人にとって最も大事なことだが、サラリーマンとは言え考えさせられるものがある。
ずっと感じることだが、多くの人が目的意識を忘れているような気がする。何のためにやるのか、そのためにはどうするのが良いのか、、、もっと考えなくてはならない。渡邉さんには及ばないまでも、その心意気が大事だろう。


もっと色々書いておきたいが、もう一つだけ書いておく。
こんな事を言っては失礼なのを承知で言うが、正直なところ少なくとも起業当初の渡邉さんの行動にいつもロジックが伴っていたわけではない。むしろ直感に頼る部分が大きい。起業当初は社会人としても経験未熟で世故に長けていたわけでもない。だから失敗も多い。これは本書にも包み隠さず書かれているとおりだ。しかし彼は行動につぐ行動で様々な危機を乗り越え成功を掴んだ。

では、もし彼が綿密に立てたロジックに従って行動し、世故に長けた若者だったなら同じ成功を掴めただろうか?常識的にはそちらの方が失敗しにくいはずだ。だが、僕はNOだと思う。もし彼がそういう人間だったなら、ワタミを大きく飛躍させる切欠となった日本製粉のパートナー募集の新聞広告を見た直後に応募の電話を入れるような鬼神のような行動力は生まれなかっただろう。彼のカリスマ性は情熱に裏打ちされたスピーチや行動によるところが大きいが、綿密なロジックに従うような人間であれば、そのカリスマ性は生まれなかっただろう。

渡邉さんの有名な一言「夢に日付を」という言葉だけ聞けば、夢に向かってスケジュールをきちんと立てる綿密さや、その夢への過程をどのように立てるかというロジカルなニオイがしてくる。しかし僕は渡邉さんの本質はそこには無いと思う。夢に日付を入れる意味は、実現不可能でもいいから自分に敢えて高い目標を課すことで、それを情熱に変え、行動に変えるための手段なのだと考える。本の中で起業前後の若かりし頃の渡邉さんは、「10年後には上場する会社を創る」とよく口にしている。その10年後という言葉には綿密さもロジックもない。形ある目標を立て突き進むための光を灯したに過ぎない。

情熱はあれど直感的な行動の結果として彼は小さな失敗、いや倒産の危機ともなった大失敗をも引き起こしてしまったが、彼はそれ以上の成功を自らたぐり寄せた。

長々書いたが、言いたいのは、「考えろ、しかし考えすぎるな、行動しろ。」ということである。
綿密に仮説を立て、理論武装し、ロジカルに行動することは悪いことではない。
しかし、僕らは必要以上に失敗を恐れて行動できずにいるのではないだろうか。
リスクヘッジ、事業継続性、、、安全を担保すべしとのキーワードが世の中には満ちあふれている。しかし、それらに振り回されるだけでは本当の意味での成長は無いのではないだろうか。失敗しない仕事や生き方は安定した結果を生むだろう。しかし、一定以上の成果は期待できない。

一サラリーマンの自分にとって重たい課題ではあるが、そのことを忘れないようにしたい。

2006年12月30日

「愚直」論

日本ヒューレット・パッカード代表取締役社長 樋口泰行氏による著書である。
氏の松下電器就職からMBA留学、BCG、Appleコンピュータの転職を経て現職に至るまでの様々な体験や選択、その時々の氏の思いや考えが克明に記されている。

この本を読んでいる間ずっと感じ続けていたことがある。樋口氏の仕事に対する考え方と僕の考え方が非常に似ているのだ。技術系で現場経験者という点が共通だからだろうか。
これまで多くのビジネス書を読み感銘を受けることも度々あったが、どちらかというと自分にはない部分に学ぶことが多かった気がする。自分と同じ考え方を持ち、資質が高く、結果を残した人。そう言う意味では自分のロールモデルになりうる人物である。

樋口氏の説かれる仕事観を列挙しておきたい。


・”心意気”といった精神面を重要視しているところ。

・自分より一段上の視点に立って仕事をしようという心がけ。

・若いうちからポジションと関係なく、「これは自分の会社だ。それを経営しているのは自分だ」という経営者意識を持つ気構え。

・あらゆるビジンネスパーソンにおいて現場重視の姿勢。現場の生情報により意志決定の精度は増し、他者への説得力も増す。

・勝負所で周囲の賛同を得るためには、それまでに実績を積み上げておくことが必須。実績もなく「勝負、勝負!」と叫んでもオオカミ少年に過ぎない。

・強い使命感を持ってことにあたる。

・自分の仕事や方向性の位置づけを体系的に把握するために常にスコープを意識する点。そしてそのスコープを広げようとする意識づけ。

・価値観の異なる人とあえて交わり対人関係の幅を広げること。
 なお、そのための基本原則として3つを挙げてあった。
 1.自分の伝えたいことを熱意と誠意を持ってきちんと伝えること。
 2.相手の気持ちや状況を理解し尊重すること。
 3.そのうえで遠慮をしないこと。(ビジネスの関係では不必要に遠慮せず言うべきことを言うこと)

・悩みが生じた時はその原因を一つ高い視点に立って考え、悩みの構造を整理しながら解決に向かうこと。

・身近な助言者を見つける。自分より広い、あるいは異なるスコープを持つ人の意見を聞くことにより良い解決策を見つけることが出来ることがある。特に自分より資質の高い助言者を見つけること。

・スピード感を高めること。迅速な行動と意志決定が成長の鍵。そしてスピードを高めるためには、仮説指向、現場指向、予測能力、そして前向きな姿勢が必要であるということ。将来の変化やエラーを恐れるばかりではいけない。トライ&エラーを繰り返し能力を磨いていくことも重要である。


これら、ビジネスマンとして必要となる資質を数多く列挙された上で本書の最後で、それでもやはり重要なことは

『「マインド」こそがすべて』

であると樋口氏は語っている。

合理主義も大切だがそれは最適化の手段であって目的にはならない。
目的を持ちその意味を追求する姿勢、それこそが「マインド」であると僕も考える。

2007年03月14日

生きること 学ぶこと

ちょっと固いタイトルだが、ある友人カップルが先日僕の誕生日にプレゼントしてくれた本の題名である。
初版は1984年だから僕がまだ小学生のころ出版された本である。

著者は広中平祐氏。1970年、39歳で数学のノーベル賞と言われるフィールズ賞を幾何学の分野で受賞された方である。フィールズ賞とはあまり聞き慣れない賞かもしれないが、映画「グッド・ウィル・ハンティング」や、ドラマ「やまとなでしこ」なんかで登場した賞である。
文末の解説は国際的なクラシック指揮者である小澤征爾が友人として執筆している。

冒頭、「この著書で、私は私自身の人生を語ろうと思う」
その言葉通りこの本では広中氏の半生が自らの口で語られており、「創造」をテーマに、夢とは、知恵とは、師とは、友とは、もつべき精神とは、姿勢とは、、、様々なサブテーマがちりばめられている。

以前、青年社長について書いた時に、僕はノンフィクションが好きだと書いた。尊敬できる人間の生い立ちや半生を知ることで、自分の人生の歩み方や価値観に何らかのヒントや糧、あるいはインスピレーションを得ることが出来るからである。「人に学ぶ」という意味では歴史も好きだが、現実的な刺激という意味ではやはり現代の人間に注目する。本来ならば現実の世界で自分の身近にいて欲しい「尊敬すべき人」が見あたらないため、こうした本にそれを求めようと考えているのかもしれない。

さて、読み終えたばかりだが広中氏の言葉から私の心に残った言葉をいくつか書き留めておきたい。


○「創造のある人生こそ最高の人生である」

 広中氏の価値観を濃縮した一言がこれだ。
 僕も同じようなことを考える。
 消費の人生と創造の人生。即物的ですぐ腹を満たせるのは消費だが、真に心を満たせるのは創造にあると僕も思う。
 消費は自分一人の幸せにすぎないが、創造は大小あれど自分以外の人のためになるからだ。
 創造には苦しみを伴う。しかし苦しみがあるからこそ手にしたものは本物なのだ。


○私は、そのような時こそ人間に深くものを考える力、深い思考力が要求されると思う。立ち直る見通しがまるでつかない、どこから手をつけて解決すればいいのか検討がつかない、そのような大問題を抱え込んだ時、頼りとなるのは自己の思考力であり、それ以外にはないと思うのだ。。。実は私たちが勉強する目的の一つは、この思考力をつちかうことにあるのだ。

 将来もし子供ができて「なぜ勉強しないといけないの?」と聞かれたらこのように答えたい。
 僕たちの年齢になってくると忘れることも早くなりがちだ。それを理由に学ぶことをあきらめる人も多い。しかし、広中氏は忘れること自体は肯定している。一度学んだことは思い出すのが早くなるので忘れてもよいと。それ以上に思考力が培われることを是としている。


○嫉妬は、ものを創造しようとする人間にはまことに好ましくない感情である。。。ではどうするか。ここで、あきらめることが必要になってくるのである。。。そのような時、私は、かの男の子の名言を声に出して唱えるのである。「ぼく、アホやし」と。すると、頭がすっと楽になる。

 「ぼく、アホやし」のくだりは、そういう考え方いいなぁと思った。
 フィールズ賞受賞者という秀才ですら(他人の才能への)嫉妬のような俗な意識を持つことがあるのか。
 スパッと気持ちを切り替えて、自分のフィールドで才能を発揮する方が確かに創造的なのだ。


○「素心深考」

 広中氏がサインする時に添える言葉。
 素朴な心と深い考え、この言葉、僕ももっておきたい。
 これに「即決実行」と実行力の下句を加えれば完璧だと思う。(※考と行で韻)


○「順境また好し、逆境また好し」。。。世の中で成功した人は、たいてい、逆境を自分の人生にプラスに取り込んでいく能力を備えているように私には見える。

 成功ウンヌンは置いておいて、逆境を楽しめる楽天性と実力を身につけることができれば、生きる楽しみの幅は広がることだろう。


「本は考えるきっかけを与えてくれる」と広中氏は述べている。
良い本を送ってくれた二人に感謝。

About 本

ブログ「Tetsu Blog」のカテゴリ「本」に投稿されたすべてのエントリーのアーカイブのページです。過去のものから新しいものへ順番に並んでいます。

前のカテゴリは旅行です。

次のカテゴリは生活です。

他にも多くのエントリーがあります。メインページアーカイブページも見てください。

2008年03月

            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31          

最近のコメント

カテゴリー

タグ クラウド